夏なのに明治乳業のR-1のCMが流れていることから(私のイメージは、R-1=冬でした)、明治のHPを調べてみました。そうしたら、OLL1073R-1株(R-1乳酸菌のこと)で発酵したヨーグルト摂取によって疲労改善効果が認められた科学論文が発表になったようですね。
元製薬会社研究員として、科学論文を読んでみました(Open Accessの記事なので、だれでも閲覧できます)。
http://www.mdpi.com/2072-6643/10/7/798
結論としては、R-1株で発酵したヨーグルトを12週間摂取すると、最良と最悪を10等分したときの1個分くらいの疲労関連症状が改善したそうです。
Contents
OLL1073R-1株とは
正式名称は、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1。
この乳酸菌を使ってできたヨーグルトがR-1ヨーグルトです。R-1株の産生するEPS(Exopolysaccharide; 菌体外に作り出す多糖体)が免疫細胞を活性化して、免疫力を高めるそうです(牧野ら、Milk Science, 58, 2, 2009, p.35)。
論文の内容
掲載誌
栄養学の分野で有名な科学論文であるNutrientsという国際雑誌に掲載されました。もちろんPeer Review(論文内容の審査)がありますので、原稿を提出してお金さえ払えばOKというではありません。
タイトル
Anti-Fatigue Effects of Yogurt Fermented with Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1 in Healthy People Suffering from Summer Heat Fatigue: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial
(和訳:夏バテ症状の健康な人においてOLL1073R-1で発酵したヨーグルトによる抗疲労効果:ランダム化二重ブラインドプラセボコントロール試験)
著者
みんな明治の方のようです。
摂取スケジュール
・対象者:健康男性(30~49歳)
・摂取ヨーグルト:OLL1073R-1とStreptococcus thermophilus OLS3059*1で発酵したヨーグルト100 mLを毎日1本(25名)
・プラセボ飲料*2:乳酸を加えて酸性度をそろえた酸性乳飲料(24名)
*1: OLL1073R-1に関する論文や特許を読んでみると、R-1ヨーグルトにはR-1だけなくOLS3059も使用しているようです。この菌体の効果まではわかりませんでした。
*2: 「病は気から」という言葉があるように、「実は薬は入っていないけど、薬だよと信じて飲むと病気が治った」ように感じることがあります。それをプラセボ効果と言います。「OLL1073R-1による効果ではなく、酸性乳飲料を飲むという行為によって薬が効いた」という下駄が存在する可能性があります。OLL1073R-1がなくても飲み物を飲むことで症状が改善したように感じる可能性がありますので、その効果を知るためにプラセボ(対照薬)を摂取するグループを作ります。
・摂取期間:2015年7月上旬から9月下旬の12週間
結果
OLL1073R-1株で発酵したヨーグルトの摂取は酸性乳飲料の摂取に比べて、「全身のだるさ」「疲労感」、「精神ストレス」が低下しました。
(論文から引用)
general malaise:全身倦怠感
feeling languid:だるさ
Fatigue:疲労
psychological stress:精神ストレス
縦軸のVAS score:「0」を全身のだるさや疲労感を全く感じない最良の感覚、「10」を何もできないほど全身のだるさや疲労感がある最悪の感覚として、現在の全身のだるさや疲労感が10cmの直線上のどの位置にあるかを示してもらいスコアとしました(明治HPから引用)
たいだいVAS scoreで”1″くらい改善していますね。ということは、最良と最悪を10等分したときの1個分くらい症状が改善したことを表していると思います。
この差がどれくらい個人的な感覚で実感できるかはわかりませんが、夏バテを感じている人はR-1を摂取してみてはいかがでしょうか?
ただし、今回の試験では有意な効果が認められるのは摂取してから12週間後でした。ということは今から飲んだら効果が出るのは11月ごろですかね。
注意点
論文に記載されていますが、今回は”女性”には試験されていませんので、女性に対する効果は不明です。
メカニズムは不明ですが、自律神経系にも良い影響が出ているそうです。しかし、抗疲労効果が認められた摂取後12週では、自律神経系への効果が消失してしまっています。うーん、謎すぎる
(論文から引用)
また、風邪症状の罹患率(風邪になったかどうかという割合)はR-1ヨーグルト摂取によって、有意な抑制効果は見えなかったようです(論文では「減少傾向があった(tended to be lower)」と記載されています)。確かに数字上はR-1ヨーグルト摂取により少なくはなっているのが、その差は・・・・
(論文から引用)
販売されているR-1飲むヨーグルトを飲めば、同じ効果が期待できるの?
論文上では「OLL1073R-1で発酵したヨーグルト100 mL」という記載しかないため、今回摂取したヨーグルト飲料が、明治で実際に販売している製品かどうかはわかりませんでした。すいません、大事なところであることはわかっているのですが、私の力不足でした
宅配専用でR-1飲むヨーグルト100mLが販売されています(市販飲むヨーグルトは112mL)が、100mLあたりの成分で見ると市販の飲むヨーグルトの方が今回の論文に近いものになっています。
一方で、重要な有効成分として考えられているEPSが市販と宅配ともにどれくらい含まれているのかという情報を見つけられませんでした。
成分 | 今回の試験 | 市販 | 宅配 |
EPS | 2.9 mg以上 | 不明 | 不明 |
炭水化物 (g) | 12.4 | 12.4 | 12.9 |
タンパク質 (g) | 3.2 | 3.2 | 3.2 |
脂肪 (g) | 0.6 | 0.6 | 0.6 |
カロリー (kcal) | 67.9 | 67.9 | 70 |
「炭水化物とかが同じ量含まれているからEPSも同じくらい含まているんじゃないの?」と考えるのであれば、市販や宅配のR-1を毎日1本飲めば同じ効果は期待できるでしょう。
プロビオヨーグルトR-1を種菌にしてヨーグルトを作ることはできます。
ただし、プロビオヨーグルトR-1の特徴である1073R-1乳酸菌が作り出すEPS(多糖体)の量は、原材料や発酵条件等により異なります。
一般家庭ではこの商品と同等量のEPS(多糖体)を作り出すことができないと考えられます。そのため、当社で生産しているプロビオヨーグルトR-1をお召し上がりいただくことをおすすめします。
(明治HPより引用)
所感
R-1ヨーグルトは冬の季節は売れているようです。今回の試験結果をもとに、夏でも売り上げを伸ばそうとする作戦ですね。後は花粉症に効果があることを示せれば、冬、春、夏を押さえることができますね(秋の代表的な病気はなんだろう・・・。秋も花粉症かな)